甲府地方裁判所 事件番号不詳 判決
右三名に対する公務執行妨害、暴力行爲等処罰に関する法律違反、窃盜被告事件につき当裁判所は檢事岸川敬喜立会の上審理を遂げ次の通り判決する。
主文
被告人露木一雄を懲役八月に処する
被告人渡〓雅一、同〓川保を各懲役六月に処する
但し被告人三名に対し孰れも本裁判確定の日より三年間右刑の執行を猶予する。
理由
被告人等は孰れも東山梨郡加納岩町上神内川千二十二番地所在究科工業株式会社日下部工場に勤務し絹織物等の製造に從事して來たが昭和二十二年十二月二十四日從業員約五十数名を以つて労働組合を結成し其の後昭和二十三年一月中旬頃全日本化学産業労働組合(産別系)に加盟して究科工業分会と称し組合幹部としては被告人露木一雄が委員長、被告人渡〓雅一、同〓川保は孰れも執行委員となり尚被告人渡〓雅一は靑年部長兼行動部長被告人〓川保は敎育宣傳部長の夫々地位に在つて組合員を統轄指導して居たところ被告人露木一雄は其の後同年一月二十七日委員長を辞任して執行委員となり更に鬪爭期間中は鬪爭委員長となつた。斯くして労働組合は其の結成以來会社側と常に待遇改善、労働協約締結などと團体交渉を爲し其の要求事項を繞つて紛糾に紛糾を重ねて來たが同年三月四日に至り会社側は経営困難を理由に工場閉鎖を言明し同月七日には現実に工場閉鎖を実施して工場への出入を禁止したので組合側に於いても之に対抗し遂に同工場を接收して生産管理を宣言し爾來引続き会社所有の宅地建物機械器具等を占有使用するに至つた。仍て会社側は直ちに甲府地方裁判所民事部に対し此等宅地建物等の占有保全の仮処分申請を爲し同月十三日同裁判所より同工場の宅地建物及び動産に対する組合側の占有を解き之を同裁判所執行吏に移すこと、同執行吏は会社側に対し同物件の使用を其の用法に從い許すことが出來る旨の仮処分決定を得たので同執行吏に其の執行を委任し、同執行吏亦即日右工場に赴いて同仮処分を執行し其の趣旨に從つて同工場の右宅地建物及び物件に対する組合側の占有を自己に移すと共に自己と同道した会社側弁護士皆川健夫に対し同物件の使用を会社側に其の用法に從い許す旨通告した、併し
第一、前述の如く右仮処分の執行は事なく終つたが被告人等は同仮処分に対し直ちに前記裁判所に異議の申立を爲すと共に其の頃他の組合員等と共謀の上今後執行吏或は会社側の人々が同工場に來たつた場合には実力を以つて其の入場を拒むことに一決し同人等の來たるを待機して居たところ同月十六日午後三時十五分頃同裁判所執行吏植松光忠が会社側代理人皆川弁護士同会社取締役谷沢喜信、谷沢貴幸、林孝善等を伴い右仮処分物件の点檢調査と該物件を会社側に使用せしむる目的を以て同工場に赴き其の正門より事務室玄関前廣場に踏み入るや組合員数名と共に腕を互に肩に組み合せ所謂スクラムを組んで極力事務室に入らんとする同執行吏に対し其のスクラムの結集力を以つて正門外道路上に押出す等多衆の威力を示し且つ多数共同して暴行を爲し因つて同執行吏の右執行を不能に終らせ以つて公務執行を妨害し
第二、更に引続き同執行吏と同道した右谷沢喜信、谷沢貴幸、林孝善等をも同様該廣場より押出さんとして他の組合員数名と共同し右スクラムの結集力を以つて極力現場に踏み止まらうとする右三名を前同樣順次に門外に押出す等多衆の威力を示し且つ多数共同して暴行を爲し
第三、其の頃組合員の給料、鬪爭資金等に窮した結果其の捻出の爲会社所有の資材製品等を搬出処分せんことを企て他の組合員等と共謀の上同年三月三十一日頃より同年四月一日頃迄の間右執行吏占有に係る同工場倉庫内より同会社所有に係るセメント一袋五十瓩入りのもの二十六袋、絹紡毛服地二十二ヤール、紡毛織糸約十ポンドを窃取したものである。証拠を案ずるに
判示冐頭の事実は
一、被告人等の当公廷に於ける孰れも、仮処分執行の結果判示工場の宅地建物及び動産に対する占有が執行吏に移つた点、執行吏より同物件の使用を会社側に通告した点を除き判示同旨の供述。
一、仮処分調書謄本中の仮処分執行の結果判示工場の宅地建物及び動産に対する占有か執行吏に移り執行吏より同物件の使用を会社側に通告した旨の記載。
一、植松光忠に対する檢察事務官第一回聽取書(六四丁より六五丁)中同人の供述として現場に臨み仮処分物件の調査を爲したところ全部現存して居たので被申請人等に同物件に対する同人等の占有を解いて之を執行吏の占有に移したこと、同物件を其の用法に從つて申請人に使用を許したことを告知し、更に之が仮処分物件であることを明白にする爲表門内稍々南寄りに何人にも見易い場所に公示札を立てて之を公示し、完全に執行を終つた旨の記載。
を綜合し
判示第一、二の事実は、
一、被告人等の当公廷に於ける孰れもスクラムを組み執行吏を正門外道路上に押出して執行吏の公務執行を妨害したとの点を除き判示同旨の供述。
一、植松光忠、谷沢貴幸の当公廷に於ける孰れも判示の如きスクラムを組んでの暴行を受けて門外に押出され、植松光忠執行吏は此れが爲仮処分物件調査の公務を執行することが出來なかつた旨の供述。
一、被告人露木一雄に対する檢察官訊問調書(一三二丁裏より一三三丁、一三五丁)中同人の供述として私共は三月十三日仮処分の執行を受けたので今後は会社側の入場は飽く迄拒み又執行吏が來ても理由なしには同樣な措置を取ろうと云うことには私、今川行動部長、渡〓雅一とで秘密に打合わせ只スクラムで相手方の実力行動に應じ樣と云うことにして置いた。ところが同月十六日午後二時過組合員より今から会社側の人が乘込んで來ると云う報告があつたので吾々も若し暴力團でも來たならスクラムで入場を拒まうと待機の姿勢で居た。私は尚鬪爭委員長としてスクラムを組むことを命じ又歌も指揮し重役連中を押出すことも私が指揮した旨の記載。
一、被告人渡〓雅一に対する檢察事務官訊問調書(一六八丁)中同人の供述として同月十四、五日頃私達は再び執行吏や弁護士其の他組合員以外の者を入場させない樣にする爲私の指揮で工場の入口の処に男子從業員の殆んど全部を集め一度其の予行を爲し、これからは此の樣な事態が生じた時にはベルを鳴らすから全員集る樣にと申し合わせた旨の記載。
一、笠井保政に対する檢察事務官訊問調書(一五六丁裏より一五八丁裏)中同人の供述として組合の幹部よりは会社側の重役や執行吏、弁護士等が又來るか知れないので其の時は中に入れないようにと指導された。具体的のことに関しては渡〓雅一、露木一雄等によつて指示せられ、無理に入つて來るようなことがあれば最後はスクラムを組んで制止しよう。そして氣勢を挙げる爲労働歌を唄い何時間でも対抗するのだ。其の時はベルを鳴らすから全員門の所に押寄せるのだと云うて一度ベルを鳴らして集まつて見た。私共は三月十六日午後三時頃仕事をして居ると非常ベルが鳴つたのでドーツと表入口に出た。すると社長の谷沢喜信、工場長の谷沢貴幸、林孝善、山本剛、その外ゴムの短靴を履いて居た五十歳過の人と髭のある人が幹部と事務室前で云い爭をして居た。皆の話によるとゴム靴を履いて居た人が執行吏で髭のある人が皆川弁護士であるとのことで私も初めて此の二人を見た。執行吏達は中に入ろうとするし組合の幹部は入れまいとして押問答を続けて居た。暫らくして其処に居た露木、渡〓、富田、〓川達が其の執行吏達の前にスクラムを組んだので私も其の仲間に入つた。後で聞くと渡〓がスクラムを組めーと大きい声で云つたとのことであるけれども私には聞こえなかつた。私の右には古屋國雄が居り又左には古屋景則が居つて私共は多分一番左翼であつたように思う。私共の後ろには女の工員が沢山が居り、卑怯者去らば去れを唄い又棚の上などにも上つて勢をつけた。スクラムを組む時私共の前に今川さんが出て執行吏達と未だ押問答をして居つたが其の中に勢がついて來てヂリヂリと執行吏や弁護士を押して行き門の北寄りに造つた扉の所まで行くと執行吏は道路に出て今川さんと弁護士と二人で何か話して居つた樣であつた旨の記載。
一、富田正夫に対する檢察事務官訊問調書(一七九丁裏より一八〇丁裏)中同人の供述として其れは生産管理に入つた本年三月七日から三日か四日後に組合事務所で大会を開き決議の結果私が業務部長、露木が生産部長、深沢が経理部長、防衞部長には渡〓雅一がなり、敎育宣傳部長には〓川保君が各就任し組合生産管理の態勢を整え以後執行吏であろうと誰であろうと絶対に工場内には這入ることを禁じ夫々の任務を担当することになつた。左樣の関係であるから執行吏が最初來た時も其の方針で進む心算であつたが緊急的に前述の樣な委員会を開き第一回は紳士的に仮処分の執行を終つたのであつて第二回の今度の場合は斯うした結果になつたがこれも其の大会の決議以來組合全員が承知の上の行動であつた旨の記載。
を綜合し
判示第三の事実は
一、被告人等の当公廷に於ける孰れも吾々は組合員の大会決議により会社所有の判示セメント、絹紡毛服地、紡毛織糸等を工場倉庫より取出し此等を希望組合員に公定價で配分して其の代金を組合員の給料の一部支拂に当てて居た旨の供述。
一、被告人渡〓雅一に対する檢事第一回聽取書(二三〇丁より同丁裏)中同人の供述として本年四月二日頃私の持つて居た鍵で倉庫の錠前を開けセメント二十五袋中二十袋を出して組合員の抽籤で分けたがこれは同年三月二十日頃私達十一名の執行委員会で組合員の給料捻出の爲会社遊休資材を処分することに決定し、大会の承認を得て処分することになつた旨の記載。
一、被告人〓川保に対する檢事第二回聽取書(三二四丁より同丁裏)中同人の供述としてセメント、絹紡毛服地、紡毛織糸等の分配については生産管理委員会で定め、それを大会にかけて決議したのであつて分配により捻出した金は総て給料、鬪爭資金等に廻した旨の記載。
一、谷沢貴幸に対する檢事第二回聽取書(三〇一丁より三〇二丁裏)中同人の供述として当時セメント倉庫内には一袋五十瓩入セメント五十七袋保管されて居つたがこれは日下部工場の機械増設用と八幡工場建設用の物であつた又工場閉鎖当時手紡糸の残糸約十ポンドと疵物の織布約二十ヤール程製品倉庫に保管してあつたが私共会社では昭和二十一年桑戸工場時代從業員の成績の良い者に報奬用に残糸を無償で配給したことがあり又昨年末全從業員に織布二百ヤールを一人三ヤール乃至二ヤールの割合により無償で分配した。会社としては未だ正式に販賣するに至つて居らず今後販賣については究科産業株式会社に一手に賣渡し同会社より小賣業者に配給することになつて居つた旨の記載。
を綜合して夫々認定することが出來るので判示犯罪事実は其の証明充分である。
被告人等及び各弁護人は被告人等の執つた本件生産管理行爲は労働組合の爭議権の範囲内に属し正当な行爲であるから犯罪を構成しないものであると主張するので此の点に付いて考察するに凡そ生産管理と云うも其の範囲程度態樣等多種多樣であつて一律に論定することを得ないが各場合に略々共通の態樣としての所謂生産管理は労働者が團体行動の下に使用者の意思を排除して工場を占拠し資材を管理し商品を製作販賣する等企業の経理権を一時其の手中に收める一連の行爲を指称するのであつて、通常爭議行爲として用いらるるところより爭議行爲の一種と解すべきである。而して労働組合法第一條第二項は正当な爭議行爲に付いては刑法第三十五條が適用されて其の行爲が刑罰法規に触るる場合でも処罰されない点を規定して居るので生産管理なる爭議行爲の方法が果して正当であるか否かにつき先ず判断すべきであるところ如何なるものが正当の爭議行爲になるか其の爭議行爲の正当性については明確な規定を欠いて居るのでこれについては爭議権を認めた法の精神に鑑み健全な常識を基礎とし社会の通念に從つて之を決定する外なきものと謂わねばならない。然るに右判定に入るに先立ち本件公訴提起になれる個々の行爲について見るに多数共同して暴行に出てたる行爲の如き生産管理とは凡そ関係なく孰れの観点よりするも到底正当な爭議行爲とは解しない。又会社企業経営と全然関係のないセメントを処分し、更に組合員の鬪爭資金獲得の爲会社所有財産たる疵物服地、残糸等を処分するが如き所爲は明に会社企業経営とは何等関係ないので此等の所爲は前述趣旨の所謂生産管理の範疇には全く入らないものと謂わねばならない。然も判示の樣に資材在中の倉庫其他の物件が執行吏の占有に帰し執行吏より会社側に之が使用を許したとは謂え未だ其の使用に先立ち会社の意図に反し組合側に於いて同倉庫の合鍵を用いて施錠を外ずし同倉庫より処分の意思を以つてセメント其の他判示物件を搬出した所爲は正に窃盜罪を構成すること勿論である。然らば右生産管理の正当性の判断に入る迄もなく被告人等の判示所爲は生産管理の行爲外の行爲と謂うべきで夫々前述犯罪を構成すること明白であるから被告人等及び各弁護人の右主張は採用するに足らない。
法律に照すに被告人等の判示所爲中公務執行妨害の点は刑法第九十五條第一項第六十條に多衆の威力を示し且つ共同して暴力を加えた点は暴力行爲等処罰に関する法律第一條第一項刑法第六十條に窃盜の点は刑法第二百三十五條第六十條に各該当するが判示第一の公務執行妨害と暴力行爲等処罰に関する法律違反とは一個の行爲にして二個の罪名に触るる場合であるから刑法第五十四條第一項前段第十條により犯情重い公務執行妨害罪の刑に從い右窃盜を除く前二者については所定刑中孰れも懲役刑を選択し以上は同法第四十五條前段の併合罪であるから同法四十七條第十條により最も重い窃盜罪の刑に法定の加重を爲した刑期範囲内に於いて被告人露木一雄を懲役八月に被告人渡〓雅一、同〓川保を各懲役六月に処し被告人三名に対しては犯情刑の執行を猶予するを相当と認むるので同法第二十五條により孰れも本裁判確定の日より三年間右刑の執行を猶予すべきものとする。
仍て主文の通り判決する。
(判事 小宮山照雄)